まず結論から
- 本家の墓でも、改葬(遺骨をほかの墓へ移すこと)の許可を申請するのは、墓地の名義人(使用者)が原則です。名義人でない人が申請するときは、名義人の承諾書などを添えます。
- 墓などを家督相続人(一般には長男)が継ぐと定めた明治民法987条は、1945年の段階で効力を失いました。1949年の大阪高裁は、戸主(家の長)を中心にした時代の慣習で墓を継ぐ人を決めることを認めませんでした。
- しまう前に、墓に遺骨が入っている人の家族と、墓参りを続けてきた親戚に話します。大津市は、墓じまいの手順の最初に「親族間での意思確認・意思決定」を置いています。
- 分家の家族の遺骨は、移す先をその家族と決めます。合祀(ほかの人の遺骨と一緒に納めること)に抵抗がある人は57.1%でした(全日本仏教会・大和証券、2024年12月、6,192人)。
- しまわずに親族へ託す道もあります。札幌市の市営霊園は、条件を満たせば、使用者が生きているうちに名義を親族へ移す「譲渡」を認めています。撤去を頼むなら、複数の石材店から見積もりを取ります。北九州市も市営霊園の案内で勧めています。
本家なのに、自分の代で墓をしまってよいのか
本家の墓は、一族の歴史そのものに見えることがあります。夫の一族が毎年営む先祖祭りに出た、本家の嫁の記録です。
夫の一族が持ち回りで営む先祖祭りに出た、子どものいない本家の嫁(note)
実は持ち回りなのはお祭りの準備だけではなく、最高位の法名が記された絢爛豪華な御位牌もまた、一年間義実家でお祭りしなければいけないのだという。 この持ち回りをしているのは7軒程で、その呼び方は「一族」とは言わず「一統」と言うそうだ。
ここ数年その一統を抜けるお宅もあるそうだが、さすがに本家である虹夫さんの家は抜けるわけにはいかない。 だけど私と虹夫さんには子供がいない。既に千葉に拠点を構えている義兄さんと義弟さんも、大分の家を継ぐ気はない。
無い袖は振れぬ。いつか私たちは一統を抜けるしかない。
祭りは戦国時代の先祖の命日に毎年営まれ、墓所には家の由緒を刻んだ石碑がありました。戦前の明治民法987条は、墓などの所有権を家督相続人(一般には長男)が継ぐと定めていたと、民法学者の竹内康博氏は講演で説明しています。
出典: 【エッセイ】墓じまいが言えなくて【先祖祭り】(note)(台帳: V0050)
その条文は、家督相続という古い制度の一部なので、1945年の段階で効力を失っています。今の民法897条では、墓などは、亡くなった人の指定か慣習に従って、祖先の祭祀(先祖をまつること)を主宰する人が継ぎます。1949年の大阪高裁は、戸主(家の長)を中心にした旧民法の時代の慣習を、その人を決める慣習として扱えないとしました。その後も裁判所は、家の制度につながる慣習を認めていません。
墓を継ぐ人は、本家かどうかでは決まりません。継ぐ人の決まり方は祭祀承継者の記事にまとめました。
家の墓を代々つなぐ考え方は、今もあります。横浜市は2017年、市内の20歳以上5,000人に墓について聞きました(回答2,087件)。墓の継承の考え方で最も多い回答は「先祖代々」の36.8%でした。
これから墓を持ちたい人の考えは違って見えます。横浜市が2022年度、お墓の取得を希望する377人に使いたい範囲を聞くと、「夫婦」が31.3%で最も多く、「先祖代々」は17.8%でした。市は、過去の調査とは対象が違うので単純には比べられないとしています。
墓じまいを考えてやめた人が挙げた理由は反対されたときの記事に、先祖へのうしろめたさが残るときの話し相手は不幸になるかの記事にまとめました。
本家の墓をしまう前に、誰に話し、何を聞くのか
墓をしまうとき、話す相手は名義人の家族だけとは限りません。ほかに継ぐ人がおらず、祖父の名義だった墓を継いでしまった孫の記録です。
両親の離婚で母方で育ち、ほかに継ぐ人がいないため、祖父の名義だった父方の墓を継いでしまった孫(note)
私の一例は、あくまでも継ぐ人間が自分以外にいなという消去法で渋々継ぐことになったものの、幸い?他人の意向にもあまり左右されなかった(または左右されたくなかった)というのがあります。 ただ、これだけは絶対に間違っていないと思っていることがあります。迷ったら、納得がいくまで、親族や血縁者と話し合うことが大切だと思います。
墓は市営墓地にあり、名義を祖父から自分に変えて進めました。市役所からは、養子に出た父の弟に確認の連絡をしてよいかと聞かれています。墓を継ぐ人も、現実には親族の話し合いの合意で決まるのが通常です。
出典: 墓じまいをしてみた(完結)(note)(台帳: V0125)
改葬の許可を申請できるのは、墓地の使用者(名義人)が原則です。全日本墓園協会の横田睦専務理事は「国民生活」の特集で、墓に納められた故人の親族からの同意書や確認書が必要となる場合もあるかもしれない、と書いています。
自治体も、手続きの前に親族で話すよう案内しています。大津市は墓じまいの手順の(0)を「親族間での意思確認・意思決定」とし、横浜市も、手続きを始める前に親族内で話し合うことが必要だとしています。墓に遺骨が入っている人の家族には、決める前に聞きます。
| 話す相手 | 聞くこと | 手がかり |
|---|---|---|
| 墓に遺骨が入っている人の子や孫(分家・おじ・おば・いとこ) | 一緒に移してよいか。自分たちで引き取るか | 故人の親族からの同意書が要る場合もある。改葬の申請書には、亡くなった人の本籍・氏名などを書く。 |
| 墓参りを続けてきた親戚 | 移したあと、どこへ参れるか | 大津市・横浜市は、手続きの前に親族で話し合うよう勧めている。 |
| 名義人(自分でないとき) | 改葬を承諾してもらえるか | 名義人でない人が申請するには、名義人の承諾書などが要る。 |
| 墓地の管理者・寺 | 地域の風習や墓地のきまり | 大津市は、地域の風習や墓地管理者のきまりを事前に確かめるよう案内している。 |
株式会社フーフーは2026年2月、墓じまいの経験者100人に聞きました。最も大変だった工程(複数回答)の最多は、「親族との話し合い・合意形成」の45%です。最初の手紙を相談の形で書く作例は挨拶状の記事に、名義人と承諾書の話は墓じまいとはの記事にあります。費用を親戚とどう分けるかは親戚が出すお金の記事へ。手続きの窓口は大津市・横浜市の記事にあります。
分家の家族の遺骨も入っている墓は、どう分けるのか
本家の墓に、分家筋の遺骨が入っていることもあります。本家筋の長男が、大阪にある先祖代々の墓について書いた記録です。
大阪・門真にある先祖代々の墓をめぐり、弟と話し合っている本家筋の長男(note)
・そこには戦後のどさくさで爺さんの弟の親族の骨も入ってるらしく。
爺さん亡きあとはこの弟が『この墓はわしのもんじゃあ!』と主張。
・爺さん長男、親父も長男、私も長男、て本家筋ですがじゃあこの本家墓は流行りのマンション霊廟みたいな所に移そうか、で。
本家として参りたい人の遺骨はすでにマンション霊廟へ移し、法事もそちらで営んでいます。残る墓をどうするかは、弟と話し合っている途中です。改葬の申請書には、亡くなった人の本籍・氏名と、申請者との続柄を書きます。
出典: (雑記170日目) 続・墓じまい(note)(台帳: V0109)
大津市では、改葬の申請書が遺骨1体に1枚要り、複数の人の分を移すなら人数分が要ります。鎌倉新書は2026年1月、「いいお墓」の利用者で墓じまいを考えた人・した人に聞きました。大変だったことの2番目は「役所の手続き」の32.3%です。鎌倉新書は、その背景に、埋葬されている人数分の申請書を書くケースなどを挙げています。
全日本仏教会と大和証券が2024年12月、全国の20〜79歳に聞いた調査(6,192人)では、合祀に抵抗がある人は57.1%でした。遺骨の一部を分けて別に納める分骨は、抵抗がある人が52.2%で、半々に分かれています。
合祀の墓へ移すなら、その遺骨の家族に先に聞きます。分け方を並べます。
| 分け方 | 資料にあること |
|---|---|
| 本家が移す先へ一緒に納める | 移す先が合祀の墓なら、合祀に抵抗がある人は57.1%。行き先の選び方は墓じまいで骨はどうなるかの記事に、永代供養の墓の選び方は永代供養の記事にある。 |
| その家族が引き取る | 名義人でない家族が申請するなら、名義人の承諾書などを添える。申請書の書き方は墓じまいの書類の記事にある。 |
| 墓を残し、親族に名義を移す | 札幌市の市営霊園は、使用者が生きているうちに名義を移す「譲渡」を認める。条件は、双方の合意・墓碑が建立済み・納骨済み・基本的に親族(配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)への譲渡のすべて。名古屋市の市営霊園は、名義人が亡くなったときなどに、甥や姪も名義を継げるとしている。 |
| 管理を託すお金を渡す | 横田睦氏は、新しい墓に使うはずのお金を、墓の近くで暮らす親族に以後の管理を託す「委託金」として渡す方法を提案している。 |
託さずにしまうなら、撤去は石材店に頼みます。日本石材産業協会が2023年度に石材店に聞いた調査では、見積もりの単位(積算の仕方)が店によって違いました。複数の石材店から見積もりを取り、項目をそろえて比べます。北九州市も、市営霊園の案内で複数の業者からの見積りを勧めています。比べ方は墓じまい費用の記事に、石材店の選び方は墓じまい業者の記事にあります。
まとめ
本家の墓でも、改葬の許可を申請するのは墓地の名義人が原則です。長男が墓を継ぐと定めた明治民法の条文は1945年に効力を失い、裁判所も家の制度につながる慣習を認めていません。
しまう前に、墓に遺骨が入っている人の家族と、墓参りを続けてきた親戚に話します。分家の家族の遺骨は移す先をその家族と決め、親族に託す道も比べます。撤去は複数の石材店に見積もりを頼みます。北九州市も市営霊園の案内で勧めています。継ぐ人がいない家の墓の話は絶家の墓じまいの記事に、嫁の立場の話は墓じまいは嫁がするものかの記事にあります。知らされなかった側の話は勝手に墓じまいされたときの記事にまとめました。
本家・一族の墓をしまう前後の3人の口コミ
最後に、親戚に話す前、遺骨を返すとき、終えて知らせたあとの3人の記録から、一節ずつ紹介します。
父が建てた公営霊園の墓を、存命の母の了承を得てしまった娘(note)
父は一人息子で妹が二人、そして子供にあたる私は妹と姉妹、そして親の苗字を継ぐことなく、嫁いでいます。
分家もなく、お伺いを立てる親戚も父の妹にあたる叔母たちだけでした。 その叔母たちも認知症で施設に入っています。
出典: 2年前に実家の墓じまいをしました(note)(台帳: V0113)
父と2人で寺の墓をしまい、墓に入っていた姉の遺骨を姉の婚家へ返した人(はてなブログ)
このお墓には父の祖父、母、父の長女(私の姉)の3人が眠っていました。
それで墓じまいをするにあたって姉の遺骨を姉の婚家にお返ししたいと父に相談しました。
出典: 【終活】墓じまいをして新たに永代供養墓を購入したお話です。(はてなブログ)(台帳: V0012)
本家の一人娘で子どもはいない。実家の墓をしまって遺骨を菩提寺の永代供養塔に託し、いとこたちに過去帳の写真を送った人(アメブロ)
私がこの世を去ったら、ご先祖様の存在も消えてしまうので、書き写して仏壇にでも入れておいてねとお願いしました。いとこたちの子供達、孫達のご先祖でもあるので。
出典: 全て完了しましたー墓じまいー(アメブロ)(台帳: V0118)
