まず結論から
- 霊園やお寺の墓地の区画は、売れません。持っているのは土地ではなく、使う権利です。都立霊園や横浜市・鹿児島市の条例は、この権利を人に譲ることも貸すことも禁じています。
- 横浜市の2022年の調査では、墓を持つか使える市民1,119人のうち、個人の所有地にある墓地は4.2%でした。寺院や教会などの墓地が48.8%で最も多くなっています。
- 使う人を替えられるのは、墓を継ぐときが基本です。東京都と横浜市は、祭祀を主宰する人(墓や仏壇を受け継ぎ、先祖をまつる人)が許可を受けて継ぐと定めています。札幌市は、存命中の親族への譲渡を条件つきで認めています。
- 撤去した墓石を、佐世保市は産業廃棄物(がれき類)と案内しています。広島高等裁判所岡山支部の2016年の判決も、撤去された台石などを有償で譲れない不要物とした判断を認めました。撤去は複数の石材店に見積もりを頼み、額と内訳を比べます。
- 自分の土地にある墓地は、持ち主が処分できる財産だと早稲田大学の浦川道太郎は説明しています。普通の土地に戻すには、墓地の廃止の許可を受けて更地にし、登記の土地の用途(地目)を変えます。
霊園やお寺の墓地の区画は、なぜ売れないのか
実家の家や土地は売れても、墓は同じようには片づきません。家の売却が先に決まった家族の記録があります。
義母の実家の家と土地が売られたあと、高知にある墓が残った家の嫁(個人ブログ・note)
義母の実家は、義祖父が亡くなった時に子世代が相続した。『共有名義』で相続した。 世代が代わり、その孫世代か仕切る代となった時、だれもが所有していれば手間と税金のかかる土地は手放したがっていた。 しかし、墓の話は誰も触れなかった。
実家は、義母の成年後見人が話をまとめて売却されました。墓は高知の山の中にあるとみられ、その姓を名乗る人はもういません。墓地を「買う」とは、永代使用料を払って土地を使う権利を得ることです。
出典: 墓の世話は誰がする?(note)(台帳: V0066)
東京都消費生活総合センターは、墓地は不動産と違って所有するものではないので、売ることも貸すこともできないと答えています。
愛媛大学の竹内康博も、「墓地分譲」と広告されていても、買った人が得るのは区画の所有権ではないと説明しています。得るのは、墓地として使う権利(墓地使用権)です。高知県も、霊園の墓地契約は使用契約で、土地の売買契約ではないと案内しています。買ったのは土地ではなく、使う権利です。
自治体が開く霊園は、この権利を人に譲ることや貸すことを、条例や案内で禁じています。
| 霊園・墓地 | 売ること・貸すことの定め |
|---|---|
| 都立霊園 | 施設を他の者に貸すことと、使う権利を他の者に譲ることを禁じています(東京都霊園条例第17条)。 |
| 横浜市の市営墓地 | 継ぐ場合を除き、貸すことと、使う権利を譲ることを禁じています(条例第8条の2)。 |
| 鹿児島市の市営墓地 | 「墓地の使用権は、売買譲渡又は貸与することができない」と定めています(条例第9条)。 |
| 鳥取市の市営墓地 | 第三者に貸すことも、譲ることも売ることもできないと案内しています(条例第7条)。 |
| 那覇市の霊園 | 施設を貸すことと、継ぐ場合を除いて使う権利を譲ることを禁じています(条例第11条)。 |
| 豊橋市の市営墓地 | 買取りではなく貸出しです。譲ることも貸すこともできず、不要になったら更地にして市に返します。 |
寺院や民営の霊園は、それぞれの使用規則によります。東京都消費生活総合センターは、契約のときに渡された使用規則をよく読み、困ったときは消費生活センターに相談するよう勧めています。
区画を返しても、払った使用料は原則として戻りません(東京都・横浜市の条例)。戻る場合と額を決めている墓地もあり、墓じまいした後の土地の記事にまとめました。
売れないなら、子や親族に譲ることはできるのか
売れなくても、使う人を替える道はあります。寺の住職が開いた永代供養墓を契約した人が、その使用規則を書き留めています。
父が建てた墓をしまい、同じ住職が新しく開いた永代供養墓を父と契約した子(個人ブログ・はてなブログ)
墓所は運営・管理者の承認を得て37回忌までは承継変更手続き(名義変更)を行うことで新相続人が継続使用できる
墓所は借用しているものなので使用権や墓地を譲渡(転売)転貸はできません
37回忌以降不要時には無償で運営・管理者に返還できる
しまった墓は、父が30年ほど前に建てたものでした。契約書には、本人が墓地の使用者として署名しています。竹内康博も、墓地使用権は祭祀を主宰する人以外には譲れないと考えられていると書いています。
出典: 【終活】墓じまいをして新たに永代供養墓を購入したお話です。(はてなブログ)(台帳: V0012)
自治体の霊園で使う人が替わるのは、主に名義人が亡くなったときです。東京都の霊園条例は、地位を継ぐ人は祖先の祭祀を主宰する人でなければならず、知事の許可を受けると定めています。
横浜市と那覇市も、祭祀を主宰する人が市長の許可を得て継ぐと定めています。鹿児島市の条例は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき人が継ぐとしています。墓を使う権利は、遺産分けとは別に、祭祀を主宰する人へ渡る財産(祭祀財産)です。
存命のうちに名義を移す道を設ける市もあります。名義を移せるのは、墓を継ぐ人が基本で、相手と時期によって扱いが分かれます。
| 名義を移す相手 | できるか |
|---|---|
| 名義人が亡くなったあと、祭祀を主宰する人へ | 許可や届出で継げます(東京都・横浜市・鳥取市)。高知市は直系家族が原則で、状況により甥や姪もできる場合があるとしています。 |
| 名義人が存命のうちに、親族へ | 札幌市は、双方の合意・墓碑が建立済み・納骨済み・基本的に親族(配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)の4つをすべて満たすときに限り認めます。高知市は「生前で承継しておきたい」という理由だけでは、承継の理由にならないと答えています。 |
| 親族でない人へ | 全日本墓園協会のFAQは、友人でも、民法897条に基づいて指定された祭祀主宰者なら、拒むのは難しいと思われると答えています。 |
| 寺院の墓地で、改葬(遺骨をほかの墓へ移すこと)のときに他人へ | 寺の同意のもとで譲ることが、慣習として認められている場合もあると竹内康博は書いています。 |
| 第三者に売る・貸す | 上の表のとおり、条例が禁じています。 |
札幌市の手続きは札幌市の墓じまいの記事に、鹿児島市の名義変更は鹿児島市の墓じまいの記事にまとめました。
墓石は売れるのか。下取りや再利用はできるのか
豊橋市は、不要になった墓所を更地にして市に返すよう求めています。では、撤去した墓石に値はつくのか。墓を近くへ移そうと調べた人も、石の行き先の話を聞いています。
金沢の奥にある父の家の墓を、東京の近くへ移そうとして断念した子(個人ブログ・note)
お墓を建て直す時には 古いお墓の墓石は重くて運べないから 現地で粉砕して処分してもらうしかなく
新しいお墓で改めて 新しい墓石などを購入しなければならない
などなど
いろんな話を聞くたびに父も私も
「やっぱりちょっと無理じゃね?」
10年ほど前、父の提案で、墓を東京の近くへ移せないか調べた記録です。最後は父と、墓をこのままにすると決めました。高知市は、墓石ごと市有墓地へ移すことも、市の基準を満たせば可能だと答えています。
出典: お墓じまいに挫折(note)(台帳: V0025)
移すときは、墓石の一部を切断・加工する場合もあります。高知市は、費用も含めて家族や親戚とよく相談するよう勧めています。
撤去された墓石の扱いが争われた刑事事件があります。石材業者から料金を受け取り、撤去された墓の台石などを引き取った人が、許可なく産業廃棄物を運んだ罪に問われました。広島高等裁判所岡山支部は2016年6月、控訴を棄却しています。
判決は、他人に有償で譲れない物は「不要物」だとしました。石材業者がお金を払ってまで台石などを処分した点から、不要物と認めた一審の判断に不合理な点はないとしています。自然石も産業廃棄物の「がれき類」に含まれ、台石などもこれに当たるとしました。
判決は、台石など墓を構成する周りの石は、棹石に比べて宗教的感情の対象として扱われないのが一般的だとも述べています。佐世保市と神戸市の案内も、撤去した墓石を処分する物として扱います。佐世保市は業者向けに、墓じまい後の墓石は産業廃棄物(がれき類)に当たり、許可を受けた処理業者に処分を任せる必要があると案内しています。神戸市も、市立墓園を返すときは、撤去した石材や残土を法律に沿って処分するよう求めています。
撤去と処分を頼む石材店の見積もりは、積算の単位が店で違います。日本石材産業協会が2023年度に会員の石材店に聞いた調査では、単位は面積・体積・重さ・一式などに分かれました。項目をそろえて、複数の石材店から見積もりを取り、額と内訳を比べます。北九州市も、市で指定した業者は無いとして、複数の業者から見積りを取るよう勧めています。
額の目安は墓じまい費用の記事に、石材店の選び方は墓じまい業者の記事に、佐世保市の手続きは佐世保市の墓じまいの記事にまとめました。
自分の土地にある墓なら、売れるのか
家の敷地など自分の土地にある墓地は、区画とは事情が違います。横浜市の調査では、個人の所有地にある墓地と答えた人は4.2%でした。
早稲田大学の浦川道太郎は、墓などの祭祀財産は取引できない物ではないと説明しています。公序良俗(社会の秩序や道徳)に反しない限り、持ち主が自由に処分できるとし、1951年の広島高等裁判所の判決を挙げています。
竹内康博によると、個人で持つ墓地の土地は、民法897条により祭祀を主宰する人が受け継ぎます。それ以外の墓地は、持ち主でも勝手に譲ることはできません。
手放す前に、次の点を確かめます。墓地をやめるには、廃止の許可と地目の変更が要ります。
| 確かめること | 自治体の案内などの例 |
|---|---|
| 墓地の許可があるか | 八王子市は、自宅の墓地からの改葬は、経営許可を受けていることが前提だとしています。分からなければ、先に保健所へ問い合わせます。許可の無い墓は撤去もできないと、愛媛県西予市の担当者が答えた例もあります。 |
| 土地の名義 | 祭祀の承継で墓地の土地の名義を移す登記は、「民法897条による承継」を原因にするのが実務の扱いです。 |
| 墓地をやめる許可 | 長野市は、遺骨の改葬許可と墓地の廃止許可の2つに加え、ほかの利用者全員の同意書を求めています。 |
| 地目 | 雲南市の案内では、更地にして地目を墓地以外に変えると廃止が終わります。変更の登記は、変わった日から1か月以内に申請します。 |
沖縄県は事情が違います。竹内康博は、区画ごとに土地を分けて登記し(分筆)、所有権を分譲している墓地もあると書いています。契約書の題が「墓及び墓地売買契約書」の霊園もあります。沖縄の墓は沖縄県の墓じまいの記事にまとめました。
手続きの順番と地目を変えたあとの税の窓口は墓じまいした後の土地の記事に、家の墓地の手続きは長野市の墓じまいの記事と島根県の墓じまいの記事にまとめました。
まとめ
霊園やお寺の墓地の区画は、使う権利なので売れません。都立霊園や横浜市・鹿児島市の条例は、人に譲ることも貸すことも禁じています。使う人を替えられるのは、墓を継ぐときが基本です。
撤去した墓石は、佐世保市の案内では産業廃棄物で、判決も台石などを有償で譲れない不要物としました。撤去は、複数の石材店の見積もりを比べてから決めます。自分の土地の墓地は、廃止の許可と地目の変更を経て普通の土地に戻ります。
墓を売って費用に充てられないときの道は墓じまいのお金がないときの記事に、墓じまいの全体は墓じまいとはの記事にまとめました。
実家を手放すときに、墓のことも考えた3人の口コミ
最後に、実家の家や土地を手放す話の中で、墓のことも考えた3人の記録から、一節ずつ紹介します。
義実家の名字を継ぎ、空き家を売る前に墓の相談で寺を訪ねた当事者(個人ブログ・note)
義実家の空き家を売る前に、片づけておかなければならないことがあった。お墓のことだ。
出典: お坊さんは、私を見なかった|義実家の墓じまいで言われたこと(note)(台帳: V0004)
夫の実家が空き家になり、義父が移した納骨堂の今後を、夫と義弟が話し合った嫁(個人ブログ・アメブロ)
2人とも同じ隣県に家を持っています。
故郷には戻りません。
義実家は手放すことになります。
立地条件的に全く売れる見込みの無い負動産です。
出典: 義実家のお墓問題(認知症やっちゃんの日々・アメブロ)(台帳: V0088)
関東に住み、北陸にある義実家の墓を見てきた嫁(個人ブログ・note)
けれど、私たちも、義父母も、関東に暮らしている。
今までも、お墓参りは、年に一度行けるかどうか。
義父は数年前に生家を売却し、義母の実家とも絶縁状態になっている。
出典: 【嫁の記録】墓じまいから見えてきたこと(note)(台帳: V0024)
