まず結論から
- 「墓じまい」という言葉が広く知られるようになったのは2014年です。問芝志保氏の2022年の論文によると、週刊誌の特集とNHKの番組が続いた年でした。改葬(遺骨をほかの墓や納骨堂へ移すこと)の件数も、この年から目立って増えています。2024年度の改葬は全国で176,105件でした。
- 言葉の流行とは別に、背景には人口の変化があります。2024年の死亡数は160万5,378人で、調査開始以来最多でした。国立社会保障・人口問題研究所の2023年の推計では、2040年の約167万人まで増えます。
- 「子どもに迷惑をかけたくない」という語られ方には、報道が広げた面もあります。問芝氏は、無縁(墓を継ぐ人や弔う人がいないこと)を迷惑とする見方を、報道が増幅してきたのではないかと論じています。曹洞宗は2023年、離檀料(檀家をやめるときに寺へ納めるお金)に相場があるかのような報道に懸念を示しました。
- まわりの反対は減ったと見る調査もあります。鎌倉新書は2026年1月、「いいお墓」の利用者で墓じまいを検討してやめた人に、理由を聞きました。「家族・親戚から理解を得られなかった」は、前回の調査より減っています。
- する人はまだ一部です。全国石製品協同組合が2026年4月に全国の40〜70代500人に聞いた調査では、57.2%が「将来もするつもりはない」と答えました。しない場合のことは墓じまいしないとどうなるかの記事にまとめています。
墓じまいはブーム?言葉はいつ広まったのか
「最近よく聞くようになった」と感じながら、自分の家の墓のことを考えた人の記録があります。
金沢駅から1時間ほど奥にある父の家の墓を、東京近辺へ移すか考えた娘(note)
最近は墓じまいとか お墓の引っ越しって言葉も よく聞くようになりましたね
私の実家でも10年ほど前に そんな話が出たことがありました
父の家のお墓は 金沢駅からさらに1時間ほど奥地に行ったところにありました
両親とも当時は京都の郊外に在住 私や親戚一同は皆東京在住
父がお参りしやすい場所への引っ越しを言い出し、娘が資料を取り寄せました。先祖の遺骨が多く、移し先に入りきらないと分かり、父娘で見送っています。問芝氏は、この言葉が広く知られたのは2014年ごろだと見ています。
出典: お墓じまいに挫折(note)(台帳: V0025)
問芝氏は2022年の論文で、新聞と雑誌の記事から言葉の広まりをたどっています。おもな出来事は次のとおりです。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2010年1月 | NHKが報道キャンペーンで「無縁社会」という言葉を示す。 |
| 2010年8月 | 問芝氏が確かめた範囲で、「墓じまい」が全国紙に初めて出る。80歳の男性が父母らの遺骨を海にまいたという朝日新聞の記事で、当時は一般に知られた言葉ではなかった。 |
| 2010年末・2012年末 | 「無縁社会」と「終活」(人生の終わりに向けた準備)が、新語・流行語大賞のトップテンに選ばれる。 |
| 2014年8〜10月 | 週刊東洋経済と週刊朝日が墓じまいを特集し、NHK『クローズアップ現代』も取り上げる。 |
| 2015年11月 | 用語辞典『現代用語の基礎知識』の2016年版に「墓じまい」の項目ができる。 |
ライフドットは2019年12月、家族の墓の管理を考える立場の20〜70代764人に聞きました。90.2%が「墓じまい」という言葉を聞いたことがありました。一方、曹洞宗は宗門の公式としては「墓じまい」という言葉を使っていないとしています。
問芝氏は、改葬の件数が2014年から目立って増えたことから、増えた分は墓じまいによるものではないかという仮説を示しています。件数の推移と増えている理由は、墓じまいは増えているかの記事にまとめました。
墓じまいの背景にある、人口の変化も見ておきます。2024年に亡くなった人は160万5,378人で、調査開始以来最多でした。国立社会保障・人口問題研究所は2023年に、この先の死亡数を推計しています。
亡くなる人は2040年の約167万人まで増え、2025年から2070年まで、どの年も150万人を超える推計です。この推計の2024年の値は約151万人で、実際の死亡数はそれを上回りました。総務省も2025年の資料で、人口減少と多死社会は今後も進むと見込んでいます。
テレビや雑誌で見る墓じまいは、実際どうなのか
テレビで見た墓じまいの形が、そのまま自分の家に合うとは限りません。
94歳の義父が、テレビで見た納骨堂へ兵庫の墓を移したいと言い出し、家族で調べ始めた娘婿(note)
しかし、改めて調べてみると、義父がテレビで見たような自動搬送式の納骨堂が、どこにでもあるわけではありません。
仮に東京のそうした施設へ移したとしても、94歳の義父が一人で気軽に何度も通える場所にあるとは限りません。
「テレビで見たから、そこへ移したい。」
と言われても、それだけで決められる話ではなさそうです。
東京で暮らす義父にとって、兵庫の墓へのお参りは簡単ではありません。番組で見たのは、遺骨が機械で参拝の場所まで運ばれてくる納骨堂でした。墓じまいで参考にするメディアを聞いた調査でも、テレビ番組は多く選ばれていました。
出典: 墓じまい編①94歳の義父が突然、「墓を東京に持ってくる」と言い出しました。(note)(台帳: V0042)
全国石製品協同組合は2026年4月、全国の40〜70代500人に、墓じまいで参考にするメディアを3つまで選んでもらいました。最多は霊園・寺院のホームページで27.8%、テレビ番組やポータルサイトなどが続きます。検討中の人では、ポータルサイト・テレビ番組・石材店のホームページがどれも42.1%でした。
報道でよく聞く言い方を、資料で確かめると次のようになります。
| よく聞く言い方 | 資料で確かめられること |
|---|---|
| 離檀料には相場がある | 曹洞宗は2023年、「離檀料は一般的に〇〇万円」のような、相場があるかのような報道に懸念を示しました。 |
| 子どもに迷惑をかけたくない | マクロミルは2018年10月、全国の20〜79歳2,000人に聞きました。終活をしている・始めたい人の理由の最多は「家族に迷惑を掛けたくないから」89%です。問芝氏は、無縁を迷惑とする見方を報道が増幅してきたのではないかと論じています。 |
| 無縁墓が増えている | 継ぐ人のいなくなった墓が全国にいくつあるかを示す統計はありません。問芝氏が見た新聞記事も、どこで・いつからなのかを示すデータを出していませんでした。 |
| 墓じまいの適齢期は75歳 | 2018年の週刊朝日の記事の言葉です。問芝氏は、決め時を年齢で示して早い決断を勧める報道の例として挙げています。 |
曹洞宗は、離檀料に宗門としての取り決めは無いとしています。地域の慣行や寺との関係の中で、当事者の話し合いで決まるものという考えです。お寺に納めるお金はお布施の記事に、かかる費用は墓じまい費用の記事にまとめました。
問芝氏は、終活や墓じまいを勧める報道がくり返されることで、それまでしていなかった人も駆り立てられる構図が見えると述べています。放置された墓がどうなるかは、墓じまいしないとどうなるかの記事で確かめられます。
墓じまいは、まわりからどう見られるのか
墓じまいをすると、親戚や近所から何か言われないかを気にする人もいます。実際に言われた人の記録です。
母の葬儀に住職を呼ばず、檀家(寺に墓を置き、寺を支える家)をやめて墓をしまった人(note)
実家近所の後家さん達は、親不孝者、住職に怒られるなど文句を言ってきたが、あななたちが代わりに墓守してくれる訳でもなく、故人を送るのは気持ちの問題であって式やお経は関係ないとの考えからスルー。
近所からの言葉は、墓じまいだけでなく、葬儀に住職を呼ばないことも含めた決断に向いていました。本人は、兄弟や親戚が気にしない人たちだったことが大きかったと振り返ります。親戚の理解を理由にやめる人は減ったという調査もあります。
出典: 早期退職してそろそろ1年 #番外、墓じまい と 実家じまい(note)(台帳: V0051)
墓じまいの事業者が2026年に行った3つの調査には、親族やまわりとのことを聞いた設問があります。
| 調査(実施・時期・聞いた相手) | 親族やまわりとのこと |
|---|---|
| 鎌倉新書(2026年1月・「いいお墓」の利用者のうち、墓じまいを検討してやめた人) | やめた理由の「家族・親戚から理解を得られなかった」は、前回の調査より減った。「先祖にうしろめたい気持ちになった」は11.1%に増えた。 |
| 墓じまいパートナーズ(2026年3月・墓じまいの経験者52人) | 大変だったことに「親族との話し合い」を挙げた人は17.3%。寄せられたコメントには「時代の流れで、親族は想定よりも理解してくれました。」も「親族の理解を得るのが大変でした。」もある。 |
| 株式会社huhu「わたしたちの墓じまい」(2026年3月・檀家をやめた経験がある100人) | 離檀の手続きで最も苦労したことは「親族・親戚の説得と同意」が22%。檀家をやめた後悔は「全くない」57%、「どちらかといえばない」40%。 |
鎌倉新書は、まわりの反対が減った分、自分の中のうしろめたさで立ち止まる人が目立つと見ています。罰や祟りが気になるときは墓じまいで不幸になるかの記事に、親戚への伝え方は挨拶状の記事にまとめました。業者に何を頼めるかは墓じまい業者の記事で確かめられます。
墓じまいは日本だけのことなのか
墓を移したり、区画を使い回したりする仕組みは、ヨーロッパにもあります。一橋大学国際・公共政策大学院の廣野洋太氏は、2016年3月の報告書で、海外の研究や報道をもとに3つの国の事情をまとめています。イタリアとフランスの記述は、1990年代の研究によるものです。
| 国 | 墓の決まり・慣習 |
|---|---|
| イギリス | BBCが2013年に墓地を運営する自治体に聞くと、25%が10年以内、44%が20年以内に区画が尽きると答えた。ロンドンでは2007年の法改正で改葬と期限付きの再利用の規制が緩められたが、2011年までに改葬を取り入れたのは1例だった。 |
| イタリア | 遺体を一定の期間ののちに別の場所へ埋葬し直す「二重埋葬」の習慣が古くからある。遺骨は家族ごとの納骨施設か、ほかの人と一緒に納める施設へ移されるため、無縁の墓という考え方が無い。 |
| フランス | 1804年のナポレオンの法令で、都市部の区画を貸す期間は5年間とされた。個人の墓は期限付きが前提で、家族の墓は永く使うことが認められている。 |
墓地の区画が足りなくなる悩みは、イギリスにもあります。報告書が紹介する研究者は、根本の問題は場所の不足ではなく、墓を永く使い続ける習慣だと述べています。
まとめ
「墓じまい」という言葉が広く知られたのは2014年で、改葬の件数もこの年から目立って増えました。背景にある死亡数は、2040年の約167万人まで増える推計です。
報道でよく聞く言い方には、資料では確かめられないものもあります。全国石製品協同組合の調査では、57.2%が将来もするつもりはないと答えています。問芝氏は論文の最後で、無縁を「お互いさま」と見るまなざしも持てるはずだと結んでいます。
墓じまいで何をするのかは墓じまいとはの記事に、件数と理由は墓じまいは増えているかの記事にまとめています。
墓じまいの広がりを身近に感じた3人の口コミ
最後に、話題になっている墓じまいを、自分のこととして考えた3人の記録から一節ずつ紹介します。
友人との食事で墓じまいが話題になり、夫の親の墓のことを考え始めた人(note)
少し前に友人と食事をした際、今巷で話題になっている「墓じまい」についての話題が持ち上がった。ニュース番組なんかでもたまに取り上げられているが、そこからの情報しかないわたしの中の「墓じまい」は結構なお金がかかるらしいということしか知識としてない
出典: 墓じまい(note)(台帳: V0111)
義父の遺骨をほかの人と一緒に納める墓へ移し、夫の実家の墓をしまうことにした人(アメブロ)
テレビで墓じまいの特集とか見たことあったけど、まさか自分がこんなに早く経験するとは。
出典: 永代合祀墓の見学(アメブロ)(台帳: V0092)
60歳を前に、3つの墓を娘1人に残さないよう墓じまいを考えている人(note)
それでも、お墓を受け継ぐ人が減り、改葬を考える人が増えている流れはあるのでしょう。
とはいえ、その流れに便乗したいわけではありません。
純粋に、自分の子供へ負の資産を残したくない。それだけです。
出典: 自分的5大事業③ 墓じまい(note)(台帳: V0110)
