まず結論から
- 撒くのは、海岸から離れた沖の海です。日本海洋散骨協会は加盟事業者に、人が立ち入れる陸地から1海里以上離れた海だけで撒くよう定めています。熱海市は事業者に市内の土地から10km以上離れた海で撒くよう求め、伊東市は陸地から6海里(約11.11km)以内では撒かないよう求めているとされます。
- 墓から出した骨を撒くのに、改葬許可(遺骨を別の墓へ移す許可)は要りません。総務省行政評価局の2023年の報告書に載った、厚生労働省の見解です。撒く前に、骨は形が分からない粉に砕きます。
- 散骨事業者が家族を船に乗せるなら、海上運送法の許可か登録が要り、船客損害賠償保険も結びます。墓石の撤去は、複数の石材店から見積もりを取ります。北九州市も、市営霊園の工事は複数の業者から見積りを取るよう勧めています。
- 撒いた骨は、集め直せません。協会の加盟事業者は、遺族が望めば、撒いた地点の緯度・経度を書いた散骨証明書を出します。
墓の骨は、どこの海になら撒けるのか
墓地埋葬法には、散骨の定義も、規制の条文もありません。総務省行政評価局の2023年の報告書は、散骨の可否や手法は各地方公共団体の裁量に委ねられているとしています。墓の骨も、父の骨と一緒に海に撒く予定で、遠い墓をしまいに行った人の記録です。
1月に父を見送り、金沢市の山にある父の実家の墓じまいに、母・兄・妹と立ち会った娘(個人ブログ・note)
1月に父が亡くなり、父母の意向で無宗教のお葬式で見送り、これから海洋散骨を予定している。
そんな中で、父の生前から考えていた墓じまいの問題が浮上した。
関東在住の母や私たちには遠すぎる石川県の、とある山にある、父の実家のお墓。
墓には、祖父の母・祖父の弟・祖父・祖母の4人が眠っているはずでした。取り出した骨は後日、父の骨と一緒に海に撒くため、業者に郵送して砕いてもらう予定です。国の事業者向けガイドラインは、骨を形が分からない粉に砕くよう求めています。
出典: 墓じまいを見届けてきた(note)(台帳: V0069)
では、どこの海なら撒けるのか。厚生労働省の研究事業がまとめた散骨事業者向けのガイドラインは、海の場合を「海岸から一定の距離以上離れた海域」としています。距離は、地理条件や利用状況などの実情を踏まえて決めるとしています。
日本海洋散骨協会のガイドラインは、距離を数字で決めています。加盟事業者が守る基準です。陸から1海里以上離れた沖で撒き、沖でも漁場・養殖場・航路を避けるよう定めています。
撒く海のある市や町が、独自の決まりを置いていることもあります。地方自治研究機構の整理と、長野市の案内を並べます。
| 市・町 | 海で撒くことの決まり・案内 |
|---|---|
| 熱海市(静岡県) | 2015年に定めた事業者向けのガイドラインで、市内の土地(初島を含む)から10km以上離れた海で撒くよう求めています。海水浴などの客が多い夏は控え、宣伝に「熱海沖」などの言葉を使わないことも求めています。 |
| 伊東市(静岡県) | 2016年に定めた、撒く人と事業者に向けた指針で、市内の陸地から6海里(約11.11km)以内の海では撒かないよう求めています。宣伝に「伊東沖」などの言葉を使わないことも求めています。 |
| 三浦市(神奈川県) | 2025年の条例に、公共水域その他公共の場所での散骨の禁止などの規定があります。 |
| 松島町(宮城県) | 2010年の条例で「何人も、みだりに焼骨を散布してはならない」と定めています。カキ養殖などの漁業への風評被害を心配して、禁止にしたとされます。 |
| 長野市 | 散骨に改葬許可は要らないとしたうえで、散骨する市区町村へも事前に確かめるよう案内しています。長野市の条例に、散骨の規定はありません。 |
熱海市と伊東市の決まりは、厚生労働省の研究班が2021年3月にまとめた報告書の例として紹介されています。両市は、散骨場の条例は海での散骨には適用されないとして、海のために別に定めました。長野市の案内のとおり、撒く海のある市町村の決まりも確かめます。
静岡県の散骨場の条例は、静岡県の墓じまいの記事にまとめました。長野市の窓口は、長野市の墓じまいの記事にあります。
家族が船で見送るとき、何を確かめるのか
撒く日に家族が船に乗るなら、船の側にも決まりがあります。国土交通省は、散骨事業者が海で散骨するときに守る海の法令を、解説にまとめています。墓をしまって遺骨を業者に任せ、自分も海を望む人の記録です。
2014年7月に実家の菩提寺(代々付き合ってきた寺)にあった墓をしまい、3人分の遺骨の粉骨と散骨を業者に任せた人(個人ブログ・note)
わたしは散骨希望だ。海に撒かれて自然に還る。身軽になった わたしは明るい日差しを浴びながら、ふわふわと海面に漂うのだ(沈むかもしれないが)
船の上で家族が花びらでもまいてくれるだろう。
墓から出した3人分の遺骨は、出張してきた業者に引き渡しました。遺骨は東京湾の沖合に撒かれ、半月後くらいに完了の書類が届いています。家族を乗せる船には、許可か登録と、保険が要ります。
出典: 汚実家片付け番外編 『墓じまい〜散骨』② 具体的な流れ(note)(台帳: V0003)
国土交通省の解説では、散骨で旅客を乗せる船には、海上運送法の規制がかかります。乗る前に確かめることを並べます。
| 確かめること | 決まり |
|---|---|
| 船の許可・登録 | 旅客定員13名以上は許可、12名以下は登録です。手続きは最寄りの地方運輸局で行います(国土交通省)。 |
| 保険 | 船客損害賠償保険を結びます(国土交通省)。協会は、1人あたり3000万円以上の船客賠償保険に入った船を使うよう定めています。 |
| 救命胴衣 | 船長は、旅客に救命胴衣を着けさせます(国土交通省)。国の事業者向けガイドラインも、ライフジャケットなどの安全装具の確保を求めています。 |
| 出航の取りやめ | 協会は、風速・波高・視程で出航を止める基準と、出たあと運航をやめる基準を決めて守るよう定めています。 |
| 花とお酒 | 花は包装を外し、自然に還るものだけを撒きます。大量の献花・献酒は、周りの状況に配慮して行うよう求めています(協会)。 |
国土交通省の解説も国のガイドラインも、散骨事業者に向けたものです。下関市は、散骨する人に向けて、自身の責任で、漁業者などの利益や宗教感情を害さないよう十分に配慮するよう求めています。下関市の散骨の扱いは、下関市の墓じまいの記事にまとめました。
国のガイドラインは散骨事業者に、約款を公表し、契約は文書で結び、費用の明細書を契約書に付けるよう求めています。散骨の費用は、この約款と明細書で比べます。墓石の撤去は、複数の石材店から見積もりを取ります。北九州市も、市営霊園の工事は複数の業者から見積りを取るよう勧めています。
頼む相手の分け方は墓じまい業者の記事、墓じまいの総額は墓じまい費用の記事にまとめました。桟橋での服装は、墓じまいの服装の記事で扱っています。
「海にまいて」と言われた家族は、どうするのか
協会の加盟事業者が散骨を受けるには、本人の生前の希望に基づく申し込みか、葬儀を主宰する権限がある人の申し込みが要ります。亡くなる前の義母から、海に撒いてほしいと聞いていた人の記録です。
関東に住み、北陸にある嫁ぎ先の墓のことを考えてきた嫁(個人ブログ・note)
義母が亡くなる前、こんなことを言っていた。
「私は、あのお墓に入れないでほしい。遺骨は海にまいて」
それは、嫁の私にも、主人にも義妹にも、はっきりと言っていた。
けれど、義父は義母を、遠いあのお墓に納骨した。
納骨のあと、義父はひび割れた墓を直したいと言い出し、「月に一回はいきたい」と話すようになりました。墓までは車で6時間かかります。2018年の論文に登場する東京都心の寺の住職は、散骨そのものは否定せず、手を合わせる場所がなくなることを心配していました。
出典: 【嫁の記録】墓じまいから見えてきたこと(note)(台帳: V0024)
自分の遺骨を撒いてほしい人は、どの年代に多いのか。横浜市が2022年10月、20歳以上の市民5,000人を無作為に選んで聞いた調査があります(回収1,822件)。「散骨(遺骨を粉状にし、海洋や山林にまく)」を選んだ人は、全体で25.5%でした。
報告書は、30歳代と40歳代では散骨、70歳以上では納骨(墓や納骨堂に納める)の割合が、全体より10ポイント以上多いと書いています。
浄土宗の公式のQ&Aは、散骨は撒けば再び集めるのは困難で、後年「遺骨を返してほしい」といわれるケースもあるとしています。
協会の加盟事業者は、遺族が望めば、撒いた地点の緯度・経度を書いた散骨証明書を出します。散骨した場所の情報は、10年間保管します。周忌に、散骨した場所を巡る船を望む人もいるためです。
海に撒かずに家に置くときの決まりは、墓じまいの遺骨を自宅に置く記事にまとめました。
まとめ
墓地埋葬法には、散骨の定義も規制の条文もありません。国の事業者向けガイドラインは、海岸から一定の距離以上の海としています。日本海洋散骨協会は加盟事業者に陸から1海里以上を求め、熱海市や伊東市は独自の距離を定めています。撒く海のある市町村に、事前に確かめます。
家族が乗るなら、船の許可か登録と、船客損害賠償保険を確かめます。撒いた骨は集め直せませんが、撒いた地点の緯度・経度は散骨証明書で残せます。墓石の撤去は複数の石材店に見積もりを頼みます。墓から出した遺骨の扱いの全体は、墓じまいで骨はどうなるかの記事と、墓じまいと改葬の違いの記事で確かめてください。
「海にまいて」と話した・話された3人の口コミ
最後に、親から海への散骨を頼まれた人と、自分が海を望む人の記録から、一節ずつ紹介します。
墓地を手放したいと、父から相談された娘(個人ブログ・note)
「お父さん死んだら、骨は海にまいて」
そんなことまで、言ってる。
父は認知症だから、思いつきで言ってるのかな?
出典: note Diary #31 墓じまいに迷う(note)(台帳: V0059)
父と同じ墓に入りたくないという母の思いを書いた、40歳を過ぎた娘(個人ブログ・アメブロ)
自分の遺骨は、海に撒くか、樹木葬で別にして、と言われました。
その件、兄達と話した事はありませんが・・
墓参りも何もせんでいい、だそう。
出典: 父と同じ墓に入りたくない母。野生動物の役に立ちたい私。(アメブロ)(台帳: V0115)
子のいない夫婦で、寺に墓じまいの相談に行った妻(個人ブログ・アメブロ)
私たち夫婦は、海洋散骨 希望
お墓参りする人もいないからね
大好きな海へ〜
自由に海外へも行けちゃうよぉ〜
出典: 連休最終日(アメブロ)(台帳: V0103)
